笠原先生のさわやかコラム vol.68
公開日:2024/02/14
更新日:2024/02/14
食習慣と生活習慣病発症のリスクについて
JR東日本健康推進センター 所長
笠原 悦夫
皆さんが定期健康診断や人間ドックを受ける際、問診票に回答していますよね。問診には、現病歴や既往歴の他、運動習慣や食事習慣に加えて、喫煙、飲酒、睡眠など、様々な生活習慣についての質問があります。これらに正確に答えることで、皆さんの健康を維持・増進させるために、改善すべき点がわかるのですが、実はこれらは厚生労働省が「標準的な質問票」として質問内容を決めており、40歳以上の健康診断や人間ドックを受ける方は、基本的に同じ質問に答えることになっています。
今回はその中でも、食事習慣にフォーカスしてお話したいと思います。
1) 食事をかんで食べる時の状態はどれにあてはまりますか。
① 何でもよくかんで食べることができる
② 歯や歯ぐき、かみあわせなど気になる部分があり、かみにくいことがある
③ ほとんどかめない
2) 人と比較して食べる速度が速い。
① 速い
② ふつう
③ 遅い
3) 就寝前の2時間以内に夕食をとることが週に3回以上ある。
① はい
② いいえ
4) 朝昼夕の3食以外に間食や甘い飲み物を摂取していますか。
① 毎日
② 時々
③ ほとんど摂取しない
5) 朝食を抜くことが週に3回以上ある。
① はい
② いいえ
上の質問項目に、見覚えがある方も多いのではないでしょうか。これは、上記「標準的な質問票」のうち、食事習慣に関連した質問を抜き出したものです。
近年、国民規模でデータが集まってきており、分析・データヘルス計画が進められ、個人の健康データと医療保険データを結びつけて、統計的に根拠を示すことができるようになりました。厚生労働省では、日常の生活習慣の積み重ねが、どんな疾病(生活習慣病)につながるのか、「標準的な健診・保健指導プログラム」1)という資料を公表しています。この中から、食事についての内容をご紹介いたします。
食べるスピードが速い人はメタボリックシンドロームや糖尿病になりやすい?
【図1 食べる速さと3年後のメタボリックシンドローム発症リスク】
工場職場の千人以上の従業員の3年間のフォローアップデータから、様々な因子の影響を排除して調整分析した(モデル1〜3)データで、食べるスピードが速い人は2倍ほどメタボリックシンドロームになりやすいことがわかりました。
さらに5年後の糖尿病新規発症リスクも40歳代では1.6倍、50歳代では1.4倍でなりやすいことも示されています。
【図2 食べる速さと5年後の糖尿病の新規発症リスク】
朝食を抜くことが週3回以上あると生活習慣病になりやすい?
日本人の数千人から数十万人のデータを基に、5年以上経過観察した分析から、朝食を毎日食べることは生活習慣病の予防につながることが示されています。
【図3 朝食摂取又は欠食頻度別の約9年後の糖尿病、脳出血、肥満の発症リスク】
さらに生活習慣病をはじめとした病気の発症の根本原因である肥満に至らないためにも、朝食は大切であることがわかりますね。
なんとなくわかっていたけれど、ただ「食べる速度が速い」、「朝食を欠食する」というだけで、健康を損なうだけでなく、病気のリスクも高めることがはっきりデータとして示されると、より身が引き締まる思いがしませんか。
- 食事を食べる時の状態では、噛みにくいことがあると、野菜や肉類の摂取が少なくなり栄養の偏りが出るとともに、生活習慣病や低栄養のリスクが高まる
- 就寝前の2時間以内に夕食をとることが週3回以上あることは、肥満との関連があり、改善できると腹囲や善玉コレステロールの改善に寄与する
- 3食以外の間食や甘い飲み物を摂取することが改善できると、体重の減少が期待できる
食事習慣だけにとどまらず、運動習慣や睡眠などの様々な生活習慣が疾病につながるのか、データで確認できるようなエビデンスとなる資料が提供されていることは、皆さんの生活習慣改善に役立つだけでなく、モチベーションにもつながるのではないでしょうか。
ジェイアールグループ健康保険組合の年齢構成を見ると、30代が非常に多く、今後5年の間に特定保健指導の対象年齢となる40歳以上の方が増えることになります。現在40歳以上の方々にはもちろん、これから40歳になっていく、20歳代、30歳代の若年成人の皆さんにも、今、そしてこれから、どのように生活したらいいのかを考える材料として、活用していただきたいと思います。
参考文献
1) 標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)厚生労働省 健康・生活衛生局 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000194155_00004.html