石井先生のさわやかコラム vol.71
公開日:2025/09/05
更新日:2025/09/05
成人期における予防接種の重要性と現状

JR東日本健康推進センター 所長
医学博士 石井 徹
ごあいさつ
JR健保にご加入の皆さま、こんにちは。
私は5月にJR健保の顧問に就任しました、JR東日本健康推進センター所長の石井と申します。この「さわやかコラム」では、皆さまが関心のある健康情報や医学全般に関する話題を、わかりやすくお届けしてまいります。しばらくの間、お付き合いいただければ幸いです。
初回となる今回は、「働く世代に必要な予防接種(ワクチン)」についてお話しします。
成人期における予防接種の重要性と現状
新型コロナウイルス感染症が感染症法上の「5類」に移行してから、すでに2年以上が経過しました。完全な収束には至っていないものの、日本各地に活気が戻り、インバウンドの旅行者も増加するなど、日常が取り戻されつつあります。このような状況を支えた要因の一つが、コロナワクチンの接種であることは間違いありません。
予防接種は子どもだけでなく、成人にとっても健康管理の重要な手段です。特に20歳以降は、加齢や生活環境の変化により免疫力が低下し、感染症のリスクが高まります。もちろん、予防接種に対して慎重な考えをお持ちの方がいらっしゃることも承知しています。しかし、予防接種も「医療行為」である以上、100%の安全性を求めることは現実的ではありません。ここでは、すでに医療的に確立されている内容に基づき、年代別に推奨される予防接種とその目的、接種率、安全性について概説します。
20〜30代:風疹・HPV・B型肝炎
この世代では、風疹の抗体保有率【※1】が低い層が存在します。特に妊娠を希望する女性やそのパートナーには、風疹ワクチン(MRワクチン:麻疹との混合、2回接種)が推奨されます。妊婦が風疹に感染すると、胎児に先天性風疹症候群を引き起こす可能性があるため、社会的にも重要な予防対象です。
また女性の場合、20前半から罹患者が増え始め30代にピークを迎える子宮頸がんの対策は急務といえるでしょう。原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチン接種【※2】(2〜3回)が2024年4月から積極的推奨とされました。このHPVは主に性交渉で感染することから、男性でも陰茎がん、肛門がん、中咽頭がん、口腔がんの原因になることから接種【※2】を検討される方も増えているようです。
B型肝炎は性行為や血液を介して感染するため、医療従事者や感染リスクのある方には、3回の接種が強く推奨されます。
- ※1日本での風疹抗体保有率は乳児(0-1歳)で67%(2024年)、2-39歳で男女ともに約90%以上、40-64歳の男性では85-89%(追加対策の対象)、女性は全年齢層でほぼ90%以上を維持(2023、2024年度国立健康危機管理機構、厚労省など複数参照)
- ※22008年度生まれの女性で57.1%の接種率(2025年1月日本対がん協会、HPVワクチンに関する調査報告)、男性に対しては東京都など一部自治体で接種を推奨)
40〜50代:インフルエンザ・帯状疱疹・肺炎球菌
40代以降では、季節性インフルエンザワクチンの「毎年」の接種【※3】が推奨されます。特に持病のある方や高齢者と接する機会の多い方は、自身と周囲の重症化予防のために接種が望まれます。
50代になると、帯状疱疹ワクチン【※4】(1〜2回接種)も検討してもよいでしょう。帯状疱疹は水痘ウイルスの再活性化によって発症し、神経痛などの後遺症を残すこともあります。2025年4月から、免疫力が低下してくる65歳以上を対象に定期接種が始まりましたが、50歳以上から対象としている自治体もありますので、接種費用の助成制度などについて確認してみてください。
肺炎球菌ワクチン【※5】は、免疫力が低下する高齢者や慢性疾患を持つ方に推奨されており、日本では65歳以上を対象に定期接種(1回)が行われています。50代でも任意接種が可能ですので、主治医にご相談ください。
- ※340-50歳代の接種率は29-48%(2019/2020シーズン調査 国立健康危機管理機構)
- ※450歳以上のワクチン接種率は約1.9%と推定されています(2021年 Prev Med.)
- ※5全国平均で約50%、65歳以上で約40%程度(厚労省)、50-64歳成人の接種率は10%未満と推定(2025年 CDCガイドラインニュース)
60代以降:高齢者向け定期接種
60代以降では、インフルエンザ【※6】、肺炎球菌、帯状疱疹の3種が主な予防接種対象となります。特に肺炎は高齢者の死亡原因の上位にあり、予防接種の意義は大きいといえます。
帯状疱疹は80歳以上で3人に1人が発症するとされており、積極的な予防接種が望まれます。
- ※665歳以上で55.2%(2022/2023 国立健康危機管理機構)
世界の接種率
様々な出典から推定する、世界における予防接種の接種率は以下の通りです(一部抜粋):

安全性と副反応
予防接種の安全性は、厚生労働省や国立健康危機管理研究機構によって厳密に評価されています。副反応の報告制度も整備されており、接種後に異常があった場合は、医師が報告する義務があります。
一般的な副反応としては、接種部位の腫れや痛み、発熱、倦怠感などが挙げられますが、重篤な副反応は極めて稀です。万が一健康被害が生じた場合には、「予防接種健康被害救済制度」により医療費や障害年金などの給付が受けられます。
結びに
成人期の予防接種は、個人の健康を守るだけでなく、社会全体の感染症予防にも大きく貢献します。さらに年代に応じた適切な接種を行うことで、重症化や合併症のリスクを減らすことができます。
国や自治体でも、接種率の向上及び安全性の理解促進のために、様々な情報を提供しています。それらも参考にしながら、予防接種の意義やリスクを正しく理解し、自らの意思で感染症対策を講じることが大切です。
予防接種についてご不明な点があれば、ぜひ医療機関にご相談ください。