石井先生のさわやかコラム vol.73
公開日:2026/09/30
更新日:2026/09/30
今からはじめよう!ロコモ予防 ~健康寿命を延ばすために~
JR東日本健康推進センター 所長 石井 徹
ロコモとは?
・ロコモとは
ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)とは、骨、関節、筋肉、神経などの「運動器」の障害によって移動機能が低下し、将来的に要介護となるリスクが高まった状態を指します。2007年に日本整形外科学会が提唱した概念であり、超高齢社会を迎えた日本において重要な健康課題の一つとなっています。
ロコモは高齢者の問題と思われがちですが、その背景には若い頃からの運動習慣や食習慣、生活習慣病の管理状況が大きく関係しています。加齢による身体機能の低下を完全に防ぐことはできませんが、その進行を遅らせることは可能です。そのため、若年期から運動器の健康を意識し、生涯にわたって身体を動かす習慣を身につけることが重要です。
・健康寿命との関係
日本は世界有数の長寿国ですが、平均寿命と健康寿命の間には依然として大きな差があります。健康寿命とは、介護を必要とせず、自立して日常生活を送ることができる期間を指します。
厚生労働省によると、健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳である一方、平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳であり、その差は男性約8年、女性約11年に及びます。つまり、多くの人が人生の最終段階で何らかの健康問題を抱えながら生活していることになります。
この差を縮めるためには、生活習慣病の予防だけでなく、移動機能の維持が欠かせません。自分の足で歩き、買い物や外出を楽しみ、地域活動に参加できる状態を長く保つことが健康寿命の延伸につながります。その中心となる考え方がロコモ予防です。
なぜロコモ予防が必要なのか?
・ロコモはなぜ問題なのか
ロコモが進行すると、立ち上がる、歩く、階段を上る、荷物を運ぶといった日常生活に必要な動作が困難になります。さらに転倒や骨折の危険性が高まり、外出機会の減少を招きます。
活動量が減ると筋力はさらに低下し、移動能力が一層低下するという悪循環に陥ります。その結果、要支援・要介護状態へ進行し、生活の質(QOL)が大きく損なわれる可能性があります。
要介護となる原因には認知症や脳血管疾患のほか、関節疾患や骨折・転倒など運動器の障害も大きな割合を占めています。したがって、ロコモ対策は介護予防そのものと言っても過言ではありません。
・サルコペニア・フレイルとの関係
ロコモと密接に関連する概念として、「サルコペニア」と「フレイル」があります。
サルコペニアとは、加齢に伴って筋肉量や筋力が減少した状態です。筋力低下は歩行能力やバランス能力の低下を招き、ロコモ進行の大きな要因となります。
一方、フレイルは健康な状態と要介護状態の中間に位置する虚弱な状態を指し、身体機能だけでなく認知機能や社会参加の低下も含まれます。
ロコモによって移動能力が低下すると外出機会が減少し、人との交流も少なくなります。その結果、フレイルへ進行しやすくなります。すなわち、サルコペニアはロコモの原因となり、ロコモはフレイルを進行させる要因となるため、これらは相互に深く関連しています。
将来のために意識したいロコモ予防
・運動習慣が将来を左右する
筋肉量や骨量は20~30歳頃にピークを迎え、その後は加齢とともに徐々に減少します。しかし、運動器は適切な刺激を受けることで維持・強化されます。
若い頃から運動習慣を持つ人は、高齢になっても筋力や歩行能力を維持しやすいことが多くの研究で示されています。また、青年期に運動習慣があった人では、将来の移動能力低下やサルコペニアのリスクが低いことも報告されています。
さらに、中学・高校時代と高齢期の両方で運動習慣を有する人は、どちらの時期にも運動習慣がなかった人に比べて筋力や身体機能が良好であることが知られています。
ロコモ予防は高齢期になってから始めるものではありません。子どもから成人期、中年期、高齢期まで、生涯を通じて継続的に身体を動かすことが重要です。
・骨粗鬆症予防とピークボーンマス
ロコモ予防においては、筋肉だけでなく骨の健康も極めて重要です。
骨量は20歳前後で最大となり、この時期の骨量を「最大骨量(ピークボーンマス)」と呼びます。若い頃に十分な運動を行い、適切な栄養を摂取することでピークボーンマスを高めることができます。
ピークボーンマスが高い人は、高齢になって骨量が減少しても骨粗鬆症になりにくく、骨折リスクも低いことが知られています。特に成長期には、ウォーキング、ランニング、縄跳び、球技など骨に適度な負荷をかける運動が推奨されます。
一方、喫煙、過度の飲酒、極端なダイエットは骨量低下の原因となります。とくに若年女性では過度なやせ志向が将来の骨粗鬆症リスクを高めるため注意が必要です。
・厚生労働省「身体活動・運動ガイド2023」
成人では1日60分以上の身体活動を行うことが推奨されており、週2~3回の筋力トレーニングを取り入れることが望ましいとされています。また、長時間の座位を避けることも重要です。
高齢者では1日40分以上の身体活動を基準とし、筋力トレーニングに加えてバランス運動や柔軟運動を組み合わせた多要素運動を週3日以上行うことが推奨されています。
特別な運動を始める必要はありません。「今より10分多く体を動かす」ことから始めるだけでも健康効果が期待できます。
今日からできるロコモ対策
・誰でもできるロコモ予防運動
ロコモ予防には、日本整形外科学会が推奨する「ロコトレ」が有効です。イラストを見てトレーニングを実践してみましょう。また、階段を利用する、一駅分歩く、家事や庭仕事を積極的に行う、長時間座り続けないなど、日常生活の中で活動量を増やす工夫も重要です。
・ロコモチェックをしてみよう
日本整形外科学会では、ロコモの早期発見のために「ロコモチェック」を推奨しています。下記のロコモチェックを実施してみましょう。一つでも当てはまる場合は、移動機能の低下が始まっている可能性があります。
・ロコモ予防のための食習慣
運動と並んで重要なのが栄養管理です。意識してバランスよく摂取することが理想です。
健康寿命を延ばすために
・生活習慣病との深い関係
ロコモは運動器だけの問題ではありません。
肥満は膝や腰への負担を増加させ、変形性膝関節症や腰痛の原因となります。糖尿病は筋力低下や神経障害を引き起こし、移動能力低下につながります。
一方、定期的な運動は高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの予防・改善に有効であり、心血管疾患や死亡リスクの低下にも寄与することが明らかになっています。
つまり、ロコモ予防の生活習慣は、そのまま生活習慣病予防にもつながるのです。
・定期的な健康チェックの重要性
ロコモは自覚症状が少ないまま進行することがあります。
そのため、定期健康診断を受け、体重、BMI、血圧、血糖値、HbA1c、脂質、腎機能などを確認することが重要です。
また、中高年以降は骨密度測定を積極的に受け、骨粗鬆症の早期発見・早期治療につなげましょう。膝や腰の痛みが続く場合は、早めに医療機関へ相談することが大切です。
・おわりに
ロコモティブシンドロームは、加齢によって突然発症するものではありません。若年期からの運動習慣、バランスの良い食事、適正体重の維持、生活習慣病予防、そして定期的な健康チェックの積み重ねによって予防することが可能です。
人生100年時代に重要なのは、単に長生きすることではなく、自分の足で歩き、自立した生活を続けることです。筋肉と骨の健康を守ることは、ロコモだけでなくサルコペニアやフレイルの予防にもつながります。
将来も元気に外出し、趣味や仕事、地域活動を楽しむために、今日からできるロコモ予防に取り組みましょう。その積み重ねこそが、健康寿命の延伸と豊かな人生の実現につながるのです。
1. 厚生労働省.令和4年簡易生命表の概況.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/index.html
2. 厚生労働省.健康寿命の令和4年値について.
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001363069.pdf
3. 厚生労働省.スマート・ライフ・プロジェクト.
https://kennet.mhlw.go.jp/slp/
4. 厚生労働省.介護保険事業状況報告(年報).
5. 厚生労働省.健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023.
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/
6. 日本整形外科学会.ロコモティブシンドローム(ロコモ)予防啓発公式サイト.
https://locomo-joa.jp/
7. 日本整形外科学会.ロコモ度テスト・ロコチェック.
https://locomo-joa.jp/check/
8. Bonjour JP, Chevalley T, Ferrari S, Rizzoli