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石井先生のさわやかコラム vol.72

公開日:2026/03/04
更新日:2026/03/10

働く人のがんの現状と、がんと仕事の両立支援の重要性


JR東日本健康推進センター 所長
医学博士 石井 徹

日本では1981年以降、がんは死因の第一位であり、働く世代にとって最も身近な疾患の一つとなっています。国立がん研究センターによれば、2021年の新規がん罹患数は約98.9万人で、全国がん登録(2019年)のデータでは40〜60代が罹患者の多くを占めています。特に働く女性では乳がんや婦人科系がんの増加が顕著で、2021年の女性の罹患数トップは乳がんでした。50歳代前半までの罹患率をみると、女性は男性より高く、30代では約3.3倍、40代では約2.8倍にのぼります。

医療技術の進歩により治療成績は年々改善しており、2019年診断例の5年相対生存率は64〜68%程度とされています。治療を続けながら社会で役割を果たしている「がんサバイバー※」も増えており、がんとともに生きることは特別なことではなくなりつつあります。
※がんサバイバー:診断確定時から治療中、治療後、再発対応中の人までを含む概念。

一方、がんと診断された人の離職は依然として多いのが現実です。厚生労働省によると、就労者の約19.8%が離職し、そのうち56.8%は初回治療開始前に離職しています。離職の背景には体力低下や副作用だけでなく、職場の理解不足、制度の未整備、情報不足など複数の要因があります。「治療と仕事の両立は無理」と考える人も約7割おり、治療の実際を正しく理解し、早まった離職を防ぐことが重要です。

2023年に国内1,058事業所を対象に実施された調査では、治療と仕事の両立支援制度を整備している企業は約半数にとどまり、企業側が対応の難しさとして「治療方針や治療期間の不確定性」を挙げています。別の調査でも「休職者の代替要員の確保が難しい」という回答が65.9%を占め、企業側の戸惑いが浮き彫りになりました。これは医療機関と企業の情報連携不足が原因の一つと考えられ、適切な就労配慮の判断が難しくなる要因にもなっています。

離職に関する国立がん研究センターの研究結果からは、職場の理解や家族の支援がある場合には、治療中でも就労継続率が高いことが示されています。一方、負担の大きい治療では離職率が高くなる傾向があります。また「仕事を続けられた理由」として最も多かったのは、「上司・同僚の理解(44.3%)」で、次いで「家族の支え(22.3%)」、「本人の努力(14.0%)」、「社会制度(9.3%)」でした。つまり、がんの前から職場内のコミュニケーションや情報共有があるかどうかが、両立に大きく影響します。


国の取り組みも進んでいます。2006年の「がん対策基本法」制定以降、制度整備が進み、2023年3月には「第4期がん対策推進基本計画」が策定されました。同計画では、治療と仕事の両立支援が独立した重点項目となり、患者・企業・医療機関の連携強化、両立支援コーディネーターの配置拡大、相談支援センターの機能強化などが掲げられています。


さらに、労働者の多様な働き方を支えるため「労働施策総合推進法」が改正され、2026年4月から施行されます。これにより、治療と仕事の両立支援の推進が事業主の努力義務となり、より積極的な取り組みが求められるようになります。
近年の調査では、「勤務時間の調整が難しい」「職場の理解不足」「副作用による体力・集中力の低下」が両立の主な阻害要因とされています。2024年の大規模調査では、治療中に仕事の都合で治療予定を変更した人が23.8%にのぼり、治療を優先できない実態も明らかになりました。
また、両立支援の“入口”として医療機関の役割が非常に重要であることも示されています。2024年の全国調査では、男性74.3%、女性62.7%が最も重要な相談先として医師や看護師を挙げました。治療内容や就労配慮の専門的調整については、産業医・産業保健スタッフの役割がますます大きくなると考えられます。

以上を踏まえると、働く人ががんになっても安心して治療と仕事を両立できる社会実現のためには、以下の4点が不可欠です。

1 職場の理解促進・教育の強化
企業内研修や管理職教育、両立支援マニュアルの整備、産業医・産業保健スタッフの積極活用により、がんと就労に関する正しい知識を職場全体に広めることが重要です。

2 柔軟な働き方の制度整備
短時間勤務、リモートワーク、フレックス制度など、多様な働き方を選択できる環境が必要です。中小企業への支援や、早期からの産業医・産業保健スタッフとの情報交換も効果的です。

3 医療機関と企業の連携強化と受け入れ態勢の整備
勤務情報提供書の活用や、両立支援コーディネーターを通じた情報共有を促進し、治療内容と就労配慮の適切なマッチングを図る体制が求められます。がん就労者の承諾のもと、産業医・産業保健スタッフ、人事労務担当者などが主治医との情報交換を行うことで、より実効性の高いサポート体制が可能になります。

4 公的支援の周知と利用しやすさの向上
相談支援センターや就労支援ナビゲーター、自治体支援などの情報を企業・患者双方が利用しやすい形で周知することが必要です。患者会での交流も精神的支えになります。

がんは誰にでも起こり得る身近な疾患であり、がん治療と就労の両立は企業にとっても貴重な人財を守ることにつながります。治療しながら働き続けられる環境づくりは、働く人の人生を支え、社会全体の活力を高める土台となります。
まさに、自分事として考えていくべき重要なテーマです。