笠原先生のさわやかコラム vol.69
公開日:2024/09/13
更新日:2024/09/13
男性も他人事でない!令和の時代に企業の生産性を上げるために、実は重要な働く女性への理解と健康支援 ~男性の目線から~
JR東日本健康推進センター 所長
笠原 悦夫
日本が抱えている問題である少子高齢化にともなって、労働力の不足が問題視されていることは皆さんもご存じのことと思います。令和3年の働く人は、前年よりも7万人減ったそうです。その内訳は男性が20万人減に対し、逆に女性は13万人増であり、労働力人口総数に占める女性の割合は44.2%に上っています。15歳以上の女性の53.1%が就労していることもわかり、女性労働力への期待も大きく、またそれにともなって女性の活躍の場も増えてきていると感じます。ジェイアールグループ健康保険組合に所属している鉄道や輸送にかかわる14事業主においても、女性社員の人数、割合は年々増加していますね。
一方で、女性の約40%が女性特有の健康課題でキャリアを諦めた、と回答している現実もあり、とても残念であると言わざるを得ません。女性特有の健康課題により、仕事の生産性が低下したり、昇進や責任の重い仕事につくことや自分の望むキャリアを諦めたりする女性がいることは、女性当事者だけではなく男性も含めた職場全体、ひいては日本経済にとっても大きな損失になると思うからです。「女性版骨太の方針2024」1)においても、女性のライフステージごとの健康課題に起因する望まない離職などを防ぎ、活躍を支援することが提言されています。女性自身も、そしてそうでない方も、まず女性特有の健康課題とその原因等を正しく理解することが必要だと考えておりますので、産業医である私が、働く女性の応援団長として話題提供したいと思います。女性は一生を通じて心身ともに女性ホルモンの影響を受けています。各ライフステージにおいて、必要なケアも変化することがわかります。(図1)
働く女性の心とからだの応援サイトより
働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
女性は妊娠・出産に必要な身体的特性を持ち、それらを働かせるために、だいたいひと月のサイクルで、脳でホルモンをコントロールしています。ホルモンのコントロールは非常に繊細なもので、男女関係なくストレスやその時の体調に大きく影響を受けますが、女性の場合は、女性ホルモンの影響を常に受けているため、もし女性ホルモンの変動があった場合、心身の状態にダイレクトに影響を与えてしまいます。
こういった体調の変化を抱えながら働くのは心身の負担が大きく、男性に比べどうしても生産性が変動しがちであることは、容易に想像がつきますね。
(図2)には、就業年齢にある女性に多い症状や疾患がまとまっています。女性特有の症状や疾患に焦点を当てて調査をしているため月経や閉経に関する設問が中心となっていますが、年代によって頻度も大きく変わりますね。また、これらは個人差があり、同じ女性でもずいぶん症状が違うと聞きます。
産業保健21(4)2-11,2024 特集「働く女性の産業保健」P.9より
働く女性の心とからだの応援サイト(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
若年期に多い月経関連疾病には、月経困難症や月経前症候群(PMS)、子宮内膜症などが含まれますが、それらの症状には、腹痛に始まり、頭痛、腰痛、食欲不振、下痢、めまい、睡眠障害、疲れ、精神状態の揺らぎ....などなど症状も多岐にわたるようです。自分の行動や不摂生が原因でなく、「女性である」という理由でこのような症状を我慢しなければならないのは、やはりつらいことだと思います。個人差が大きく、症状のつらさは本人にしかわからないため、周囲の同僚や上司に理解が得られず、月経周期を理由にして男性よりも成果が劣ってはならないと、無理をして働いてしまったり、個々の悩みは更に深刻になってしまいがちです。その他、妊娠・出産についてはどうしても女性が主体となりますね。閉経を迎えてからは、月経関連疾病が落ち着いたとしても更年期障害症状が増加します。女性の生活とキャリアを両立していくことの壁は、なかなか高いように感じます。原因は、これまで常識とされていた慣習にともなったものもまだまだ多いでしょう。中には家族や周囲から婦人科に行ったり薬を飲んだりしない方がいいといわれたり、必要以上の我慢を強いられたり、自分から我慢してしまったり…
さて、今まで私が書いてきた内容について、知らなかったことはありましたか?今回の内容は実は基本的なものなのですがいかがでしたか。働く女性への健康支援を考えるとき、労働基準法や男女雇用機会均等法に定められた生理休暇や母子健康管理について、また、育児に関連した終業時間や休職についての配慮が必要なことについて、社会全体で等しく共有しておくことは非常に重要です。しかし何より、女性だけでなく、それ以外の方が正確で誤解のない健康のための情報を自ら取捨選択し活用していく「ヘルスリテラシーの向上」が必要であると思っています。それができれば、女性の課題解決を通して、社内でのジェンダーフリーや高齢就労者の雇用維持などに関連した課題についても、より公平で適切な対応がなされていくと思うのです。これらへの支援は企業や健康保険組合の努力だけでは実現困難です。私たち産業保健スタッフ(産業医、保健師)の役割も大きくなるのは確実で、身が引き締まる思いです。自分自身のためにも、職場や会社のためにも、女性の健康課題解決を考えていくところから、皆さんもヘルスリテラシーの向上に向けての努力を始めていきましょう。
- ※ 1)仕事と健康課題の両立支援 女性版骨太の方針2024 内閣府 jyuten2024_honbun.pdf (gender.go.jp)